解説『機能訓練指導員養成テキスト』第2章 発達と老化の理解
こんにちは@hitokutokumeiです。機能訓練についての教科書「柔道整復師と機能訓練指導員ー機能訓練指導員養成テキスト」を解説・要約していきます。今回は第二回です。
第2章 発達と老化の理解
A 人間の成長と発達の基礎的理解
成長と発達は区別しないで使われる言葉ですが、改めて定義を定めています。
成長・・・時間経過や加齢に従って主に体の量的な増加による変化
発達・・・心身の形態や機能の変化
ハヴィガーストの発達課題
発達課題とはハヴィガーストが提唱した概念です。社会的に必要とされる習得するべき課題のことです。発達の程度で課題が変化していきますが、老年期のみを抜粋します。
老年期・・・肉体的な力、健康の衰退への適応、同年代の人との明るい親密な関係を結ぶこと、社会的・市民的義務の引き受け、肉体的に満足な生活を送るための準備、死の到来への準備と受容
エリクソンの発達段階説
エリクソンの発達段階説は心理・社会的側面から発達課題とそれを達成できなかった時の危機を設定しています。こちらも老年期のみ抜粋します。
老年期の発達課題・・・統合
課題の克服できなかった場合の危機・・・絶望
概要・・・人生を振り返り、自分が価値のある存在であったか否かを考える段階、死に思いをはせ、一生の成就を受け止めようとする
ハヴィガーストとエリクソンの発達課題について、老年期の共通点は自身の死に向き合うことです。“終活”という言葉もあるくらい、多くの高齢者は死について達観した考え方を持っています。親や配偶者の死を受け入れ、健康の程度にかかわらず次第に自分の死も受け入れていきます。心の発達の最終段階と言えるでしょう。
逆に課題を克服できなかった場合(自分の人生と死を受容できなかった場合)は絶望に心を支配されていしまいます。人生の後悔や死について不安と焦燥に苛まれてしまいます。周囲の人が課題を克服できるよう導いてあげる必要があります。
B 老年期の発達と成熟
老化と加齢の違いを定義しています。
老化・・・成長がピークに達した後の変化
加齢・・・全生涯にわたる変化
C 老化に伴う心と身体の変化と日常生活
サルコペニアとフレイル
サルコペニア・・・進行性及び全身性の骨格筋量及び骨格筋力の低下を特徴とする症候群
フレイル・・・高齢になって筋力や活力が衰えた段階。健康と病気の中間
高齢による筋力の衰え「サルコペニア」と呼ばれ、さらに生活機能が全般的に低下すると「フレイル」となる。
このサルコペニアとフレイルを予防することが必要で、具体的には習慣的な運動と栄養に富んだ食事の摂取、感染予防を図ることが求められています。
D エイジング理論
老化
老化は感覚、知能、記憶、人格のそれぞれに影響するが必ずしも全体的な変化が一度に生じるわけではなく、感覚や知能、記憶には低下や衰えが見られるが、人格の基本的な部分は保たれるなど出現に時間的相違があります。
老化の心理的影響
初老期や高齢期のうつ病(老年期うつ病)は必ずしも精神的要因で生じるわけではなく脳の疾患やパーキンソン病、糖尿病や薬物などで生じることも多く、環境変化が要因となって老年期うつ病を起こします。
高齢者のうつ病患者に対応するとき大切なことは受容的な態度で接し、励まさない、体のケアや援助を行うため症状の変化や薬の副作用を観察する、自殺の予防に努めるなどです。
高齢者に生じやすい薬の副作用に抗コリン作用があります。抗うつ剤の働きによりアセチルコリンがシナプス後部の受容体と結合を阻害する作用を抗コリン作用と呼びます。便秘や口の渇きが副作用として現れ、緑内障の患者の場合は眼圧の上昇で症状を悪化させる懸念があります。また、前立腺肥大症の患者の場合は尿が出にくくなる副作用が見られます。
E 高齢者と健康
健康寿命
健康寿命は自立して生活できる期間のことです。健康寿命は平均寿命より10年前後短くなっており、健康寿命を延ばしてこの差を埋めることが目標です。
高齢者に見られる疾患の理解
高齢者は複数の疾患を合併している場合が多く症状は非定型的です。訴えが複雑であれば、いつ、どこで、何によってと整理して丁寧に聞き取る必要があります。応答が機敏でない高齢者に対しても、介護者は忍耐強く受容的に接するとともに、小さな変化を見逃さず機敏に対応することが重要です。
腹痛
高齢者の腹痛は腸閉塞(イレウス)、消化性潰瘍(胃・十二指腸)大腸腫瘍に留意する。
便通
高齢者のほとんどは便秘の問題を抱えています。便秘の定義は団体、国などで見解が異なります。テキストの医学的判断基準では「①排便が1週間に2回以下である、②排便時の1/4以上に硬便、③残便感、④難渋する排便のうちの2つ以上が見られる。」とされています。
誤嚥と窒息・誤嚥性肺炎
高齢者は食事中の誤嚥と窒息に注意しなければなりません。肉や魚は一口大に小さくしたり、野菜は柔らかく炊くなど食材・調理法を工夫すればリスクを減らすことができます。
骨粗鬆症
骨粗鬆症の方の介護では、車いすへの移乗や体位変換などの際に急激な力を加えると骨折を起こす可能性が高くなります。
骨折
高齢者に頻発する骨折は、大腿骨頚部骨折、脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端部骨折、上腕骨頚部骨折などがあります。特に脊椎圧迫骨折は頻発します。
運動器疾患
関節リウマチは女性に多い関節の痛みや腫れ、変形、可動域制限が見られる疾患で、生活上では安静、関節に負荷をかけない、冷やさないことが重要です。
変形性関節症は関節の骨や軟骨がすり減ることで生じる有痛性の疾患です。変形性膝関節症はその代表です。適度な運動と負荷のかからない姿勢が大事です。
肩関節周囲炎は五十肩などと呼ばれるものの総称です。痛み始めた急性期は安静が第一ですが、慢性期に移行したら適度な運動が必要になります。また、肩を冷やさないことも重要です。
腰部脊柱管狭窄症は腰椎部の脊柱管が狭窄され脊髄など神経組織が圧迫される病態のことです。間欠性跛行や下肢のマヒ、排尿排便障害が見られます。混同されやすい椎間板ヘルニアは脊髄ではなく、脊髄から枝分かれする脊髄神経を圧迫する病態です。MRIで見比べれば腰部脊柱管狭窄症は脊柱管全体が圧迫され、椎間板ヘルニアでは左右どちらか片側の脊髄神経が押し潰される像が写ります。
皮膚疾患
白癬は水虫、タムシ、しらくも等のことで、白癬菌感染によって起こります。
カンジダ症は白いカスが乳房下や脇の下、おむつの当たる部位に現れる病気です。
どちらも皮膚の清潔と抗真菌薬により治療します。
生活習慣病
高齢者には生活習慣病が多くみられる。
脳血管障害では脳梗塞とクモ膜下出血の割合が高く寝たきりになりやすい。片麻痺、失語症などの後遺症が残ることもあります。
高血圧症は高齢者の1/3が罹患していると言われており、収縮期高血圧症がほとんどです。適度な運動、食事制限など降圧剤内服を用います。
がん(悪性新生物)については高齢者は様々ながんが見られ、胃がん、肝臓がん、肺がん等が代表です。
糖尿病は高齢者では2型がほとんどであり、高血圧症と同じく生活改善と適度な運動、薬物療法を用います。
脂質異常症はかつて高脂血症と呼ばれた病気で、動脈硬化を招き、心筋梗塞や、脳梗塞を起こしやすくします。
その他
白内障はほとんどの高齢者に見られる水晶体の混濁です。加齢が原因で、かすんだり二重に見えたりします。
緑内障は自覚症状がほとんどなく視神経が障害され視野が狭くなる病気です。
老人性難聴は耳が遠くなることで、初期は高音域が障害され、次第に全周波数領域で低下します。
失禁、特に切迫性尿失禁が高齢者では多く見られ、尿意が起こると我慢できなくなります。
パーキンソン病は振戦、固縮、無動、姿勢反射障害が4大徴候。
前期高齢者(65~74歳)に1か月で2㎏以上の体重減少があれば悪性腫瘍、うつ病、慢性疾患の悪化を疑いましょう。
不眠の原因は様々ですが高齢者ではしばしば見られうつ病、神経症、生活障害の徴候が背景にあるようです。
末梢神経障害は加齢による痺れや手足の機能障害で非常に頻度が高いです。
薬物療法のポイント
座薬は体温で溶けるように作られているので冷蔵庫に保管する。
錠剤やカプセル剤は刺激性や味、においなどを調整しているので原則として原型を壊さないで服用させます。
点眼薬は共同で使用すると点眼薬を介して感染症を引き起こす可能性があるので複数人には使用してはいけません。
概説
- 老年期では迫りくる自身の死と向き合う必要があるとハヴィガーストとエリクソンは説いている。
- サルコペニアは高齢者の筋量・筋力低下。フレイルは健康と病気の中間段階。高齢になるにつれサルコペニアからフレイルへと移っていく。
- 高齢者は様々な疾患を患っている。症状が非定型的なため、知見を深め利用者をよく観察する必要がある。