機能訓練指導員の柔道整復師

整骨院辞めて時間に余裕ができたから始めたブログ。医療・介護・働きかたについて書いていきます。

唾液腺マッサージにエビデンスあるの?

 介護分野では常識となりつつある唾液腺マッサージにはエビデンス(根拠)があるのか?ふと疑問に感じました。

「唾液腺を押せば唾液が出る」って人間の身体はそんな単純なのか?

そう簡単に臓器を押せば分泌液が出るだろうか?

涙腺を押せば涙が出るか?

胃を押せば胃液が出るか?

汗腺を押せば汗が出るか?

多分出ないです。出たら困りますよね。

 

経緯

職場で口腔ケアについての勉強会が行われました。

口腔ケアとは歯磨き、うがい、粘膜や舌の清掃、入れ歯の洗浄と調整、口腔体操を含む口腔リハビリテーションなどを指します。

口腔ケアを行うことによって味覚嗅覚が鋭くなり、咀嚼、発音の改善が起こるそうです。

それによって食事の楽しみが増えたり、コミュニケーションの円滑化、口臭による不快感の改善が期待できるとされています。

 

この口腔ケアの一つとして唾液腺マッサージが有名です。

あごの周りに存在する3つの唾液腺を指や手のひらでマッサージすることにより唾液の分泌を促進させることを目的としています。

唾液の分泌は口の渇きを抑え、咀嚼を円滑にするので食事の前に唾液腺マッサージを行う介護施設は多いのではないでしょうか。

 

しかし、勉強会が終わった後になってふと疑問が湧いてきました。

唾液腺を含め分泌液を体外に排出する組織を外分泌腺と呼びます。

これら外分泌腺は外分泌細胞の集まりで、臓器により特有の構造をしています。

この構造により簡単に分泌液が漏れないようになっています。

ですから唾液腺を押せば唾液が出るのは本当なのか疑問に思ったわけです。

 

調べることにしました

 分泌の調整は2つに分けられ、神経の興奮によるもの(神経性分泌)とホルモンによるもの(体液性分泌)です。

ほとんどの外分泌腺は神経性分泌と体液性分泌の両方により円滑にコントロールされています。

ここで驚いたのが唾液腺は神経性分泌のみで調整されているということです。

これは外分泌腺の中では唾液腺のみです。

 具体的にどんな刺激が神経の興奮につながるのかというと

  • 食べ物想像
  • 味覚、視聴嗅覚
  • 口腔粘膜の物理的刺激

これらの刺激が自律神経によって唾液腺に伝わって唾液分泌に繋がるわけです。

……やっぱり唾液腺への直接刺激については生理学の本には書かれていませんでした。

「口腔粘膜の物理的刺激」は口内の刺激であり、体表面から刺激を加える。唾液腺マッサージとは別と考えるべきです。

 

次はネットで論文を探します。

何件か無料で読める日本語論文が見つかったので流し読みしたところ、ほとんどが唾液腺マッサージにより唾液の増加を認めたと書かれていました。

 

でもここで効果ありと決めるのは早計です。

さすがに口腔関連の専門ではないので具体的な研究方法についてはわかりませんが、これらの論文はバイアスを排除できたかは微妙な感じです。

やっぱりここは信頼度の高いシステマティックレビューを探しましょう。

 

質の高い論文

ステマティックレビューとは多くの論文を総括した論文の事です。簡単に言うと普通の論文の上位互換です。

論文の質は様々です。質の高い研究を行った論文を探し出してまとめたものがシステマティックレビューです。

そしてこれらを取り扱っている組織がコクラン共同計画です。無料で見れますし、日本語版も充実してきています。

 

そこから唾液腺マッサージのレビューを探したところ……

見つかりませんでした!えぇ~

一番近そうなのはこれです↓

ドライマウス症状に対する非薬物治療 | Cochrane

加齢ではなく薬剤性と他の疾患からの二次性口腔乾燥についてのもので、鍼や電気刺激、電動ブラシで唾液は出るか調べたものになってます。

今回の目的とは外れてしまっていますが、なかなか面白かったです。

ちょっと引用します

主要な結果

ドライマウス症状のある人を対象とした鍼療法の効果を評価した5件の試験は概して質が低かった。ドライマウス症状における差異を示したエビデンスはなかったが、鍼治療後1年間持続した唾液産生のわずかな増加のエビデンスがいくつかみられた。ドライマウスにおける差異を示すのに十分な参加者が組み入れられていなかったか、または本物の鍼と「プラセボ」鍼はいずれもある程度の効果がみられた可能性があった。鍼治療群では有害作用(軽度で一時的な小さな傷および倦怠感)がより多く認められた。

電気刺激装置の効果を評価した試験は、その実施および報告状況が不良で、ドライマウスまたは唾液産生産生のいずれにおいてもこれらの装置の効果の判定に十分なエビデンスは得られなかった。

電動歯ブラシと手動歯ブラシを比較した1件の小規模な試験でも、ドライマウスまたは唾液産生について差異がみられなかった。

選択されたいずれの試験でも、有効性の持続期間、生活の質(quality of life :QOL)、患者満足度、または口腔衛生評価のアウトカムは報告されていない。

エビデンスの質

これらの試験は概ね質が低かった(低いおよび極めて低い)。

ドライマウス症状に対する非薬物治療 | Cochrane

全滅じゃん ……

論文の質は全体的に低いし、有意差もない。

 

閑話休題

唾液腺マッサージってマイナーな研究分野なんでしょうか?

そもそも日本でしかやってないとか? 

直訳の Salivary gland massage でググっても根拠になりそうな文献が見つかりませんでした。私が見つけられなかっただけかもしれませんが。

実際に検索してもらえるとわかりますが、英語で検索したら解剖図とか若い人物の画像がヒットするんですよね。日本語だと高齢者の画像ばかりがヒットするのに。

f:id:hitokutokumei:20190308000304p:plain

高齢者の口腔乾燥に唾液腺マッサージを行っているのは日本だけかもしれません。

 

そもそも最初にネット検索した時から違和感があったんです。この手の医療系健康系のキーワードで検索すると行政が作成したページや製薬会社がまとめたページとかがヒットするものなんですがそういうのが無くて。

 

結論

唾液腺マッサージは口腔乾燥に効果があるとされていますがバイアスが否定できません。

つまり微妙だな!よくわかんない!もっと文献ください!

 

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