機能訓練指導員の柔道整復師

整骨院辞めて時間に余裕ができたから始めたブログ。医療・介護・働きかたについて書いていきます。

柔道整復師と鍼灸師のダブルライセンスって実際どうなの?費用対効果から考えてみた

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こんにちは@hitokutokumeiです。今回は国家資格を二つ持つことについて持論を記事にしました。

ダブルライセンス

若手の柔道整復師の間ではお決まりのやりとりがあります。それは「鍼灸師は取らんの?」です。これは資格で自分のキャリアに幅を持たせるかどうかの質問です。二つの資格を持つこと、とりわけ整骨院業界で柔道整復師鍼灸師二つの資格を持つことをダブルライセンスと言います。鍼灸師とあ摩マ指師や、PTとOTのダブルライセンスもあります。

柔道整復師の資格を持っていると整骨院を開業することができます。鍼灸師も同じく鍼灸院を開業することができます。両方の資格があれば両方合わせて鍼灸整骨院にできます。

整骨院一本でやっていくよりも、鍼灸師を取得して鍼灸整骨院を目指したほうが良いと言われることがあります。理由としては、柔道整復師で学ぶ徒手療法に合わせて鍼と灸を扱えるようになることで治療の幅が広がるからというものです。また、「整骨院は溢れているから鍼灸治療もできるようにして差別化を図る」というものもあります。

資格を取得する前の学生時代から柔道整復師鍼灸師のダブルライセンスの話題はよく出ていました。同じ「東洋医療系」ということで相性が良いから、ということのようです。

同じ「東洋系」とひとくくりにされるけど 

柔道整復師鍼灸師は同じ東洋医療系とされています。

柔道整復術は日本での整形外科的な治療法として生まれましたし、鍼灸も中国から輸入された治療法です。同じく東洋で誕生した治療法なので東洋系と呼べるかもしれません。

しかし2つの治療法はベースとなっている理論は全く違います。現在の柔道整復術は西洋医学と完全に融合しています。例えば、肩関節脱臼を治す徒手整復法としてカリキュラムで教えられるものは西洋の整形外科医が考案した整復法と同じです。

逆に鍼灸は東洋独自のものです。経穴、いわゆるツボと呼ばれる人間の体表面の特定部位へのアプローチをメインの理論としています。

現在は経穴ではなく神経や筋肉への刺激を主とした考え方もありますが鍼と灸を扱う治療法は西洋医学にはありません。ヨーロッパにも針で体に穴をあけ血を抜く「瀉血(しゃけつ)」というものがありましたが、針を使うのはあくまで血を抜くための手段でしかありませんでした。

二つの治療法は生まれこそ東洋でしたが時代に合わせて変化し続けており、両者のメリットをいいとこどりできることもあれば方向性がかみ合わないこともあります。

二つの方向性

そもそも柔道整復術は応急処置の医療です。骨折・脱臼の整復固定と打撲・捻挫・挫傷に対する処置技術を本来の生業とします。

鍼灸は外傷に限定せず幅広い疾患に対応するとされています。むしろ慢性疾患の治療や自律神経の調整作用など柔道整復師では対応できない症状に使えます。

こうなると二つの資格がある方が

急性期:柔道整復

慢性期:鍼灸

と使い分けができるようになります。これが治療の幅が広がるというダブルライセンス肯定論の軸です。一人の患者を最初から最後まで面倒を見ることができるのはダブルライセンスのみだと言えます。治療家として患者を治したい、良くしたいと考えているなら資格は多い方に越したことはないですからね。

実際の現場では

ここまでは理想の話。実際の現場ではどうでしょうか?

現在の整骨院骨折・脱臼を扱うことはほぼありません。捻挫等は軽症のものがほとんどです。整形外科が増え、救急医療体制の整備が進んだため本来の業務である応急処置を行うことは少なくなっています。じゃあ大多数の整骨院はどうしているかというと肩こりや腰痛を肩・腰の捻挫等として処理し、マッサージを応急処置ということにして保険請求を行っています。違法ですが患者は安いもみほぐし感覚で整骨院に何度も通うことができるため常態化しています。

鍼灸治療も一部保険請求を行えますが医師の同意が必要となります。ほとんどの医師は鍼灸治療に同意しません。同意すれば医師が「私では治せません」と言っているようなものだからです。よって鍼灸治療は全額自費となるケースがほとんどです。これは整骨院に通っている層とミスマッチを起こしています。

安いもみほぐしとして来ている患者は一回数千円する鍼灸治療を拒みます。鍼が怖いとかもっともらしいこと言いますが、単にお金をかけたくないだけです。鍼灸治療が一回数千円なら数百円のマッサージを何回できるだろう?と考えています。本気で自分の体の痛みを治したいならば鍼灸治療に挑戦してみることは悪い判断ではないはずなのにです。

私は鍼灸整骨院で勤務したことがありますが、急性期から慢性期と患者を診ていく流れで柔道整復術鍼灸治療となった例は数えるほどしか見ていません。

施術所は増えまくっている、施術者も増えまくっている

柔道整復と鍼灸を両方できることは素晴らしいことですが、差別化が図れるわけではなくなりつつあります。養成する学校は大抵柔道整復師鍼灸師の両方を開校しています。そして経営的な思惑により学校側も学生にダブルライセンスを勧めます。柔道整復師コースと鍼灸師コースの両方に進学すると学費100万円免除!」と宣伝していたりします。その成果もあり、昔は希少だったダブルライセンスの人間も増えています。

柔道整復師鍼灸師は更新の必要がない資格で定年もありません。年々合格者数がそのまま資格保持者の数に加算され、数が減ることはありません。同業者で飽和状態です。

理論がかみ合わない

柔道整復と鍼灸の治療理論がかみ合わないことが起こります。例えば柔道整復では損傷した筋肉に対して安静にするべきだと考え、鍼灸では鍼刺激を加えるべきだ考える場合などはどちらかの理論を捨てなければなりません。これはどちらが最善か施術者自身で考えなければなないのです。

鍼灸は日本独自の進化を続けてきましたがベースとなっているのは中医学です。中医学には五臓六腑の考え方があります。これは○○という経穴を鍼刺激すると××という臓器がよくなる、といったものです。しかしこの古典的な考え方で治療を施す鍼灸師は減りつつあります。現在の医療の理論とかみ合わないためトリガーポイントの理論を組み合わせたりします。やはり理論がかみ合わず、片方の理論を捨てつつあるのです。

西洋医学東洋医学ダブルスタンダードの折ありをどうつけるかがとても難しいポイトンです。さらに今では骨盤・姿勢矯正や最新の徒手療法やらの理論が混在している混沌とした状態になっています。

費用対効果から考えよう

柔道整復師鍼灸師を取得するためにはそれぞれ最短で3年ずつ合計6年必要です。どちらも学費が400万円前後かかりますので2倍の約800万円。多少免除されたとしても700万円近く必要になります。それで給与にどれだけ反映されるでしょうか。多めに見積もって月給5万円アップとします。雇われている場合400万円の学費の元を取り返すには

400÷5=80 80ヶ月必要、つまり6年半以上必要になります。

ちなみに私がいた鍼灸整骨院では月給3万円アップでした。この場合は

400÷3=133.333... 約133ヶ月つまり11年以上かかるのです!

もしも給料を上げるためにダブルライセンスを目指すならそれは間違いです。学校に通うよりその分働いて分院長に出世した方が独立のための勉強になるし給料も上がるはずです。

どんなセラピストを目指すのかにかかっている

私の知人に専門学校の柔道整復師コースを卒業したものの肝心の国家試験を落としてしまい、国試浪人となってしまった人がいます。そして彼は学校側の勧めに乗せられるままに鍼灸師コースにも入学してしましいました。ここまでなら割とよくある話なのですが、彼は一味違っていました。なんで鍼灸師を取ることにしたの?と聞いたところ「学校の先生に両方取った方がいいって言われたから・・・」と答えました。あまりの主体性のない理由をはっきり言うのでその場にいた全員が凍り付きました。

彼はそんな宙ぶらりんな状態で整骨院で働きつつ、柔整師、鍼灸師の勉強を続けていました。そして1年たったので今年の試験はどうだった?と聞いたら驚いたことに「そもそも今年は試験を受けてない」と答えたのです!受験しなかった理由ははぐらかされて答えてもらえませんでしたが、生半可な覚悟では中途半端な結果になると悟りました。

治療法は日々進化しています。追いきれないくらいの情報から最善の選択肢を選び取らなければなりません。柔道整復師鍼灸師の皆さんは勉強会やセミナー、手技の反復練習、高価な最新機器の導入とその使用法の研究等々学校を卒業してからも勉強の日々だと思います。その中でも一芸に秀でてやっとやっていけるという厳しい状況で、どのようなセラピストを目指すかにかかっていると思います。

ダブルライセンスではやれることが増えます。でも業界内では柔道整復師免許と鍼灸師免許の片方だけでも試せることは無数にあります。数百万円のお金と何年にもなる時間をかける必要があることなのかは個人の自由な選択です。将来独立開業を目指すならお金と時間はとても貴重です。開業費用になったかもしれない資金で学校に通うのか、経営の勉強をできたかもしれない時間を学校で過ごすのか。

お金は取り返すのに時間がかかります。時間は取り返せません。後悔のない決断をされることを願っています。

結論はこれです。

どのようなセラピストを目指すか、その目標にダブルライセンスは必須なのかどうか。

自分の地元に鍼灸整骨院を構える!そんな目標があるならば二つの資格を取るべきです。自己実現のためです。何事にも代えられません。

私は介護分野で働く柔道整復師です。介護には制度上鍼灸は使えません。デイサービスや老人ホームに所属しながら鍼灸施術を施してもボランティアになってしまいます。これからも介護の業界にいる予定なので私の目標にダブルライセンスはありません。

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