機能訓練指導員の柔道整復師

整骨院辞めて時間に余裕ができたから始めたブログ。医療・介護・働きかたについて書いていきます。

働きながら国試浪人をした人の決断

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辞めたい介護士

年度末となり退職や人事異動のシーズンですね。

私の働いてる職場でも、同僚の介護士の退職話が浮上していたのですが社長に仕事を続けるよう説得されていました。

介護士が辞めたがった理由について話を聞くことができたのですが、これが柔道整復師業界の抱える国試浪人問題に関係していたのです。

介護士は国試浪人だった

以降はその介護士のことをAと呼びます。

Aは自分のけがを整骨院の先生に治療してもらった経験から整骨院で働くため柔道整復師を目指します。Aは柔道整復師を養成する専門学校を卒業しましたが、資格を取得できませんでした。

柔道整復師の資格は養成学校を卒業して試験を合格しなければ取得できません。Aは試験に落ちていました。

この「学校は卒業したけど試験を落とした人」のことを国家試験の浪人生であることから「国試浪人」と呼びます。柔道整復師の最近の合格率は新卒が80%程度で国試浪人は20%程度。問題は年々難しくなっています。

そして追い討ちをかけるように来年からは試験問題の出題範囲が広がって形式も変わることが決まっていました。

追い詰められたA

Aは今年の試験を落とせば、勉強してない範囲まで出題される来年の試験は絶対受からないと理解していました。

そのことで上司が前々からAにハッパをかけてもいました。

しかし、先日行われた試験にAはまたもや落ちていました

整骨院介護施設を経営する特殊性

Aの話を続けるには私やAが働いている会社と柔道整復師の業界について触れなければなりません。

柔道整復師の就活は特殊で、卒業のギリギリになって就職先を決めます。これは試験がある3月まで資格を取れるかわからないからです。

就活生は試験勉強が忙しいなか資格が取れるか定かではないまま就活をしたくはなく、試験の合否がわかってから就活を始めることがほとんどです。

雇う会社側も無資格の人間を受け入れたくはないので保険をかけます。試験より前に面接をしたら勉強の進み具合やストレートに試験は大丈夫そうか聞いてきます。ある企業では就職が決まったら試験対策の勉強を教えてくれるところもあるそうです。

そして、私とAの働く会社は保険として選択肢を提示します。

試験に合格したら新入社員の希望通りの職場で働いてもらい、不合格なら介護施設で働くことを勧めるというものです。

これは整骨院介護施設の両方を経営する強みです。

新入社員にとっては介護施設の方は無資格でも働くことができるので、試験を落として内定取り消しの心配がありません。

会社側も新入社員が試験を落としても人手不足の介護施設ある程度医療の知識がある人間を雇いれることができます

一見WIN-WINの関係かと思いきや実際はそうではないようでした。

会社はAを無資格でも雇ってやったと足元を見て安い給料で他の職員より長く働かせていました。

これがAに退職を決意させた原因でした。

今の仕事は割に合わない

2年間働きながら試験勉強を続け、最後は心折れたAは今の会社にいる意味がないと感じたようです。試験に合格したら待遇の改善を約束されていたのですが、それも不可能とわかり、辞める決心をしました。

今回は社長に説得されてしぶしぶ残ることになりましたが、社長を突っぱねて辞める方法を私と話し合っていたので退職するのは時間の問題です。

ちょっと医療に詳しい一般人

Aのような国試浪人は全国にたくさんいます。前回の試験(H29年)で落ちた人は2631人。少ないように思えて実際は違います。

試験の合格は養成学校の評価に直結します。少しでも高い合格率で宣伝したい学校側は試験に落ちそうな学生に試験を受けさせません。卒業は認めるが試験は受けるなと通達したり、留年や別のコースに転学するよう勧めたりします。

また、一回目の試験で落ちて諦めた人もいるでしょう。推測ですが、道半ばで諦めた人も含めると1万人くらい国試浪人はいるんじゃないでしょうか。

国試浪人の就職は厳しいです。学校でどんなに専門的な勉強をしていてもそれを証明する資格を持っていないために「ちょっと医療に詳しい一般人」でしかありません。

学校が開催してくれるキャリアイベントなどは試験に受かることを前提に話を進めます。学校側は国試浪人にどういうキャリアを歩むべきか指針を示しません。そして企業側は国試浪人を安い労働力として雇う。

弱い人間には厳しい社会だとつくづく感じます。

連続退職の見えない爆弾

実はA以外にも社内には国試浪人の介護士が数名働いています。待遇はAと同じく安月給に長時間労働。これはAでなくてもいつ辞めるかわからないということです。

そしてすでにAではない国試浪人の社員1名の退社が決まっており、退社の連鎖が始まるかもしれません。

この冬にスタッフが集団で退職した老人ホームで死者が出る事件が発生しました。私の職場の近くでも核となっていたスタッフが集団で抜けた後サービスの質が極端に落ちたと噂になった介護施設がありました。

「専門卒で専門資格は持っていません」では雇う側が敬遠するのも無理はありません。しかし、それでも社員の足元を見て搾取するようでは会社の方が自滅するだけです。

きっと正当な報酬と休日をAや国試浪人の社員に与えていたならこんなことにはならなかったと思います。

 

もしもウチの会社で社員が一気に辞めるようなら私も辞めます。泥舟から逃げる。これに尽きます。